<本文のポイント>
・この8年で私学助成園が半減し、施設型給付園が3倍になった
・背景には、女性の就業率の上昇と出生数の減少に加え、 世帯年収の減少が関係している
・園児募集は市場調査をして相互理解と「納得」 を前提とした情報を届ける事に集中する
<本文>
2015年に開始した子ども子育て支援新制度は、
2023年で8年が経過することになります。
グラフを眺めながらこの8年間を数字で振り返ると、
子育ての潮流が大きく変化していることが分かります。
<Graph1>
出典:学校基本調査、 認定こども園の施設監査よりGCLIPがグラフ化
まず2015年当初6221園だった私学助成園は、
2022年には2783園まで減少しました。
この8年で半分以下の数になっていることになります。
対照的に、2015年に2769園だった認定こども園の数は、
2022年には9136園へと3倍以上に増えています。
施設型給付の幼稚園も560園から1533園へと増加し、
いわゆる新制度園が数的マジョリティとなりました。
理由はいろいろと考えられますが、
次のグラフを見ると、
新制度のモデルが現在の子育て家庭のライフスタイルに合致してい る
ということになりそうです。
<Graph2>
出典:統計で見る日本よりGCLIPがグラフ化
勿論、私学助成のモデルで定員を充足している、
または、定員を超えて応募が絶えない園もありますので、
「全ての子育て家庭が…」ということではありませんが、
Graph1のとおり、数字で見る限りでは
新制度が多くの子育てニーズに応えていると言えます。
ここからはすこし大雑把なおさらいになりますが、
幼稚園が移行できる新制度園のモデルは主に以下の3つに分類され ます。
①施設型給付の幼稚園
≒満3歳以上の1号認定に特化した認定こども園
②幼稚園型認定こども園
≒満3歳以上の1号認定と2号認定を受入れる認定こども園
③幼保連携型認定こども園
≒3歳以上の1・ 2号認定と3歳未満の3号認定を受入れる認定こども園
※3つの類型を分かり易くするためにそれぞれ≒ として大雑把に分類
※1号認定に分類される「新2号認定児」は①~③ の全ての園で受入れ可能
※3号受入を実施している幼稚園型認こ園、
3号受入をしていない幼保連携型認こ園など様々な形が実在する
この10年の出生者数と共働き率の推移(Graph2)を
こうして改めてみてみると、
共働き家庭の増加に伴う預かり需要の拡大が新制度園の増加に
大きく起因していることに疑う余地はありませんが、
そこだけに目を向けると本質を見誤る可能性があります。
少し話はそれますが、
来年から本事業化が予定されている「こども誰でも通園制度」 について、
面白い見解を教えてもらったので共有します。
この制度は保育所等の主に0-2歳の空き定員を利用して、
保育所に通っていない子どもが週に1- 2回定期的に通園できるという、
”ポスト待機児童時代” の需給バランスを維持する趣が強い制度です。
保育所の定員が充足するための制度との見方がありますが、
見方を変えると、 制度が実装されて子どもの利用が伸びない場合は、
「利用定員※の設定を下げずに利用者数が減少する」ので、
行政側の給付費支出が抑えられるというメリットとなり得ます。
※新制度園の給付費は利用定員の人数によって単価が決まり、
設定人数が低くなると給付単価が上がる仕組みになっている。
真意ははかりかねますが、物事を多面的に見て考察する上で、
こども誰でも通園制度の”もう一つの視点” は大変示唆に富んでいます。
新制度に話を戻す前に、
新制度と世帯所得の推移の間には関係性を検証してみましょう。
日本の世帯所得は1994年をピークに下降しています。
世代別にみれば共働き率の上昇により
2020年に「児童のいる世帯」の平均年収は813万円と
過去最高となっていますが、全世帯では下がっています。
世帯所得も複眼的にみてみましょう。
1994年の世帯所得平均値は664万円ですが、
中央値にすると550万円になります。
2020年の世帯所得平均は564万円で、
中央値は440万円です。
まずそれぞれの年の平均値と中央値で100万円以上の差があるの で、
所得の2極化は当時も今もあまり変わっていないと言えそうです。
一方で25年の時を経て、 世帯所得は100万円程度下がっています。
この世帯所得額の変化がサブスクリプション型※の消費を
後押ししていて、新制度園の保育料のシステムも
このサブスクリプション型になっていて、
今の時代の保護者層の支払に馴染みが深いと考えられます。
※サブスクリプションとは、 製品やサービスなどの一定期間の利用に対して、
代金を支払う方式。 音楽の月額課金や携帯電話の定額制支払いなどがこれにあたる。
私学助成園で預かりや給食など保育サービス機能が一定の基準を保 っていて、
0歳からの就園前の家族との接点を週3回以上の頻度で持っている にも関わらず
園児数が著しく減っているという場合は、
預かり保育含め、価格とその支払い方法など、地域の競合園( 保育園含む)の
状況を調べて対策を検討するタイミングにあります。
価格は最大のメッセージです。
単に高いから、安いから、いい、わるい・・・ という事ではありません。
金額や、支払い方法に対して、
「納得できる情報が相手に届いているか?」
「納得できる人がきちんと集まっているか?」
という点がとても重要なのがこのサブスクリプション全盛の時代な のです。
今こそ市場調査をしっかりして、今後の自園の運営戦略と
料金設定および徴収の仕方を整理しておくようにしましょう!