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【処遇改善加算を戦略的に活用する!】

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処遇改善加算を戦略的に活用する!
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<記事のポイント>
・処遇改善等加算をグロスで捉えよう
・処遇改善(増額分)を支給する側とされる側の共通認識が重要
・労働分配率を設定し、[ 定期昇給 < ベースアップ ]で給与テーブルを運用してみる
・「正解」はない!「納得解」に向けて戦略的に処遇改善を活用する
 
 
<本文>
先日オンラインセミナーで処遇改善の活用の提案をしました。
新制度園は処遇改善を正しく理解して戦略的に活用すれば、
職員が辞めないための「守り」のみならず、
職員を戦力化し採用を活性化する「攻め」の活用が可能となります。
 
そもそも処遇改善加算とはどんな性質なのか?
ざっくり説明していきます。
 
待機児童が社会問題として取り沙汰されていたころ、
この問題を解消するためにはそもそも給与額が低いとされる 幼保業界で
働く人の給与 を“相対的”に上げていこうよ!という 趣旨で設計され、
収入の 改善を図るために創設されたのが 処遇改善等加算です。
※正式名称は処遇改善等加算(※等がつきます)で、
 これが結構大きなポイントです。
 
処遇改善加算はⅠ,Ⅱ,Ⅲと3種類あり、
図1のようにそれぞれの役割をグロスで理解することが大切だと
セミナーではお伝えしました。
 
 
 
<図1:処遇改善等加算の概念図>
 
 
処遇改善Ⅱを例にとって少し説明しましょう。
こちらは組織内で補いたい経営課題や強化したいイベント、
GCLIPとしては、「園児募集」「職員採用」「園内コミュニケーション」
3つのセクションで課題が発生しやすく、担うべき役割が多いため、
何れかを担ってもらえる職員を募り、役割を明確化したうえで、
配分額を決め、相当の手当を支払うというカタチを提案しています。
 
もちろん、人数A(=40,000円支給者)を1名決めて、
残りの額を等分して全員に分配するという方法もあり、
「公平感」を重んじ、この方が説明しやすいという方もいますので、
自園の経営方針や経営者の考えを優先して決めるのが望ましいです
 
このようにベストな配分方法を一択に絞れない理由は、
どう配分しても職員の満足度を均等上げることが難しいため、
自園に合ったやり方を模索することが重要だからです。
 
処遇改善とは収入増が目的の分配金ですから、
個人が増加額で収入の多い・少ないを判断するので、
少ないと感じれば不満がでますし、
多いと感じれば満足するでしょう。
ただ残念ながら満足の持続期間は短いのもまた事実です…
 
そのため、園側が担ってほしい役割を明確にし
全教職員に伝えたうえで、予め面談などを実施して
各人の組織への貢献度に応じて金額を決定することが望ましく
処遇改善等加算を戦略的に活用することになります。
 
 
例によって前段が長くなりましたが…、次に処遇改善Ⅰを説明します。
グラフ1のとおり、
職員の経験年数(幼稚園教諭・保育士として働いた経験)によって
率が変わる「基礎分」(青)とキャリアパス要件の設定によって生じる
「賃金改善要件分」(橙・緑)に分かれます。
これに、民間の給与水準との差額を埋める「人事院勧告分」(赤)を加え、
処遇改善等加算Ⅰは3つの要素によって構成されています。
 
極めてシンプルに説明しますと、
基礎分(青)は、「賃金改善に充てなくてもいい金額」
賃金改善用件分(橙・緑)は「賃金改善に充てなければならない金額」
人事院勧告分(赤)は「賃金改善に充てるべき金額」
と、なります。
 
<グラフ1:処遇改善加算Ⅰのイメージ>
 
重要なのはグロスで理解することですので、
箱根駅伝好きの方は、出場校のユニフォームをイメージして覚えるのもいいですし、
鉄道が好きな方は、イメージカラーと合致して覚えるでもいいのですが、
ここでは青の基礎分は「賃金改善に充てなくてもいい」と捉え、
橙・緑、赤の配分方法を考えることに集中しましょう。
 
賃金改善要件分(橙・緑)は秋口(10月~11月)にかけて、
処遇改善計画のためのエクセルシートが行政より送られてきて、
処遇改善Ⅰ~Ⅲの配分計画を策定できるようになっていると思います。

 
先述した処遇改善Ⅱの配分方法にもよりますが、
役割が明確でない限り、対象者が過度な収入増にならないように
計画的に金額配分することが望ましいです。
ここでのポイントは、経営者への配分も上手に加える事で、
全体のバランスを欠かないよう調整することが重要です。
自治体によっては経営者及びその親族への配分へ注意を促す所もありますが、
 「過度に偏った配分」になっていなければ特段問題はなさそうです。
※「過度に偏った配分」の基準はそれこそエリアや担当者で反応は区々です。
 
 
最後に、人事院勧告分についてです。
これがちょっと厄介なのですが、
8月に人事院勧告が発表され、12月に公定価格に反映されました
これを人材不足が叫ばれる園内の事務チームのみで
年度内に処理するのが極めて困難なため、
人事院勧告対応分については事務負担を抑制すべく市町村にて算定し、
事業所に伝える事となっています。
 
子ども家庭庁の「事務連絡」にある通り、
「行政の担当課に確認しましょう!」
というのが、筋ではありますが、グロスで捉えることが重要なので、
理想を言えばある程度理解しておくことがやはり大切です。
 
ということで、給与テーブルを年度ごとにアップデートして
基本給のベースアップで対応するやり方をセミナーでは提案しています。
1月~3月までが忙しいのに、
4月まで遡って差額分を支払うのは面倒だ!
という声も十分に理解できますが、
逆に言うと、計算式が明確になるので、
月次給与、賞与、残業代など・・・
基本給が明確であるほど差額の計算は楽になるはずです。
 
また、給与のベースアップをすると
人件費の圧迫を招くという意見もあります。
これももっともなのですが、
幼稚園由来の園の場合は特に「定期昇給額」が
毎年3,000円や5,000円と
ピッチ(幅)が大きいケースが多くみられます。
 
かつてのように平均勤続年数が5年程度で、
ある程度毎年子どもが決まった数入園するのであれば、
それでも経営上何ら問題はなかったのでしょうが、
子どもの数は目に見えて減少し、
ベテランの経験年数が高まる傾向の強い昨今では、
給与テーブルの見直しは、人件費率を再度計算して
60~70%内(他の支出が極端に少ない場合は75%程度)に
収まるように調整しないと経営状況の悪化は免れません。
 
そこで、人件費支出をあらかじめ決めて運用できる
給与テーブルの定期的な見直しをご提案するに至りました。
 
下の表1の新制度移行1年目の給与テーブルを
基準年度となる前年度を仮に”従来型”(グリーン)とし、
移行1年目を当年度”新制度対応型”(ピンク)とした場合、
昇給ピッチを狭めることによって、
支給総額が抑制できることが分かります。
比較すると6年目以降は新制度対応型が基本給の支出が軽減されます。
 
<表1:給与テーブル比較>
 
こうすると若手への基本額配分率が高くなるので、
処遇改善加算配分比重の方向づけがある程度容易になります。
 
・経験年数での貢献度の対価職員
・知識が豊富で重要な役割を担う職員
 
に対し、比重を置くことでベテランのやる気を引き出し、
或いは、マンネリ化を防ぐ効果も見込めます。
※現職の先生方の基本給が減額しないための配慮は必要です。
 
 
もし同じメンバーで翌年(2年目)を迎えるとするならば、
更なる基本給の支出抑制効果(人件費圧迫対策効果)が見込めます。
こちらは3年目には新制度対応型の方が支出が抑えられますので、
昇給ピッチのコントロールの効果を感じていただけると思います。
 
<表2:給与テーブル比較>
 
 
ベースアップによって私学共済の掛金額が変動することもあります
しかしこれは、定期昇給でも変わるでしょうし、
あらかじめ標準報酬月額を確認して昇給ラインを決めておくことで
「想定外をなくす」範疇に収めることが重要です。
 
もちろん今回紹介したの事例はひとつの例ですので、
より良い処遇改善の活用方法も間違いなく存在するはずですので
GCLIPとしても新たな道を模索していきます。
 
 
重要なのは、この制度を運用する今の時代は、
画一的で絶対的な「正解がない」ということです。
先ほど「従来型」と「新制度対応型」と表現しましたが、
おそらくではありますが、確信的に思うのは、
これまでの運用の延長線上に納得できる解は存在しないはずです。
 
 
これからの園経営で大切なのは、
これまでの「正解」から「納得解」へと進む先を
アップデートさせることだと心得て、
失敗を恐れずに果敢にチャレンジすることです。
 
GCLIPもさらに進化し、有益な情報を届けられるよう
精進しますので、共に進化しましょう!